コロナ第三の道。R=1持久戦略の概要と考え方。

サトウヒロシ
9 min readMar 20, 2020

日本が選択しているコロナへの対処法は、R=1持久戦略とよぶものです。これは、中国の封じ込め、英国の集団免疫(すでに撤回済みですが)とも違う、第3のアプローチです。

R=1持久作戦では、自粛を中心とした社会的距離を保つことにより、長期間にわたり、コロナの拡散を現状レベルで抑えることを目的とします。その間にワクチンの開発を待ちます。

現在の日本国民は、さまざまな自粛の制限のなか、苛立ちを覚えているひとが多いかとおもいます。これがいつまでつづくのかと。出口がみえなければ、我慢も限界になるというものです。

自粛策がどこまで必要なのか、何をやり、何をやらない選択ができるのか。いつまでやる必要があるのか。

こうした疑問に答えるための、議論の土台と、およその方向性について、このエントリでは解説します。

少々長いですが、シンプルに書いたので、最後まで読んで欲しいと思います。

ぼくらは、R=1を保つ

ウイルスというのは感染者一人が、さらに複数の人に感染させるから広がります。これを、再生産数とよびます。一人の感染者が、何人に感染を広げるかという数字です。再生産数のことを「R」と呼んでます。専門用語なのでそのまま覚えてください。

何もしない放置状態では、新型コロナは、1人の感染者が2.5人に広げると推測されています。つまりR=2.5です。(※なお放置プレイの時の再生産数をR0と呼ぶ)

Rが2.5であれば、あっという間に感染がひろがり武漢になってしまいます。

では、Rが1ならどうでしょう。1人の感染者が1人に広げるのだから、広がりもしないし収束もしません。またRが1以下であれば、時間をかけて患者がへり、いずれ収束します。

日本の現状は、感染が発散しないために、すくなくともR=1を保つという方針のようです。

自粛メニューの効果と費用は?

さてRを低く保つ自粛にはいろいろな種類があります。外出禁止といった極端なものから、手洗い推奨といったゆるやかなものまでいろいろなレベルがあります。これらの施策がそれぞれ、Rに対してどのような効果をもつのかというのを定量評価すると見えてきます。

その例示が次の表です。

出典(https://medium.com/@tomaspueyo/coronavirus-the-hammer-and-the-dance-be9337092b56

翻訳しました。

効果というのはRを下げる効果がどれだけあるか。コストは週にいくらのコスト(社会的損失ふくめ)がかかるかです。

たとえば、バー・レストランの閉鎖はRを0.24引き下げる効果があり、効果はあるものの、コストが高いです。一方で、接触履歴の追跡体制と実施は、効果が0.25と高く、コストはさほどかかりません。

これらの施策をどこまで実施すべきでしょうか?

(重要)この数字は、なんらエビデンスがあるわけではなくブログ筆者の根拠が曖昧である。あくまで本エントリは、考え方を提供するものであって、この数字が一人歩きしては決してならない。

ロックアウト時の緊急メニュー

たとえば、現在のイタリアやアメリカといった緊急の場合で、とにかく感染の拡大をなんとしても抑えこまないといけない場合は、一気にR値をさげることが必要です。

(オレンジが実施)

このメニューで言えば、とにかく何でもやる。やらないのは、日用品店の閉鎖、お店・サービスの殆ど閉鎖といった本当の極端なメニューだけです。のこりはコストがかかろうがなんだろうが、効果があるものは実施せざる得ません。

たとえば、オレンジの施策をすべて打つと、Rを0.36まで下げることができるとしています。これがいま最も厳しい都市で行われている封鎖策のメニューです。

平時の施策は何を取り入れ、何をやらずに済ませるか

では、平時のメニューであるR=1を達成するにはどうすればよいでしょうか。そのようにメニューを取捨選択すべきでしょうか。

効果と費用でマトリクスにしてみるのがわかりやすいです。

(1)左下の象限は、効果は低いがコストも安いというもので、とりあえず実施すべきメニューです。ベーシックメニューということになります。

(2)右下の象限は、効果が高く、コストも安いので、やらない手はありません。マスト施策です。

(3)左上の象限は、効果は低いが、コストが高い。できればやりたくないけれど、他の方法をすべてとりいれてもまだRが1以下にならないなら、この象限から選択していくつか取り入れる必要があります。議論の余地あるメニューです。

(4)右上の象限は、効果も高いが、コストも非常に高い。都市閉鎖といったときに導入すべき、緊急メニューです。

R=1を平時で目指す場合は、だいたいどういうメニュー構成になるでしょうか?

1、2は、議論の余地なくマストです。それでもRは1.5くらいのままです。これだけでは足りません。3のメニューのなかから取捨選択してR=1になるように追加してくことになります。具体的には、展示会・スポーツ中止、渡航制限あたりは含めざるえないといえましょう。休校は影響が大きいのでやりたくないですが、Rが1にならなければ含めざるえなくなります。

といった具合で、施策を検討してくことになるという感じです。

引用したブログ筆者によれば、のR=1メニューは下記となるとしています。

オレンジをすべて実施して、これでR=0.97になります。かなりキツイ制限だとおもいます。

以上はあくまで引用したブログ主によるシミュレーションを紹介したのものです。日本における各種政策の効果や、費用の見積もりなどは未知です。

科学的意思決定では、こうしたものを定量的に把握し、コストを見積もり、政策の意思決定します。いま論争になっている学校の休校も、効果とコストが見積もることができ、他の施策との相対的な位置づけがわかれば、必要であるかどうかも自ずとはっきりするでしょう。もし必要であるならば、嫌でも施策に含めざる得ません。しかし、いまは定量的な話ではなく、いやだから、困るからといった感情的な話で議論が進んでいます。

日本でR=1を保ち続けるには?

さて、筆者の感覚値になりますが、このままR=1の現状維持をつづけるには、かなり制限のきついメニューをこなす必要がありそうです。ごく一部の極端な施策をのぞいたほとんどのメニューは実施して、ようやくR=1になる見立てです。

個別の施策でいうと、日本では接触者の個別のトレースや、その周辺の積極的な検査体制というのはまだ不十分です。またビルや公共交通などにおける検温などもおこなわれていません。これらの施策はコストも安いと思われるため、取り入れる余地がありそうです。

もし、検査・トレース・検温を強化することで追加的にRが下がれば、そのぶんだけ学校の再開など社会的に影響の大きいものを解禁できます。

経済の影響を考えて、ゆるやかに解禁をという声も有りますが、解禁できる程度にも上限があります。Rが1を超えてしまっては感染連鎖がとまらないので、ダメなのです。解禁するにしても、Rが1以下になる範囲でなにができるのか、ということを意識しないといけません。

持久戦はいつまで続くのか?

さて、この持久戦がそれがどのくらい続くのかということですが、R=1を保つ戦略の場合、出口はワクチンの登場しかありません。集団免疫でも、根絶でもないのですから、持久のゴールはワクチン登場まで耐え忍ぶという目的になります。

ワクチンがいつできるかは神のみぞ知るです。1年かもしれないし、3年かもしれないし、開発できないかもしれません。同じコロナウイルスの、MERS、SARS、風邪にはいまだ有効なワクチンは開発されていません。そのため、出口の時期を予め提示することはできません。

またワクチン以外の出口として、特効薬と治療法が確立して、ほとんど死なない病気になるという手も有ります。これは全ての戦略における解になります。

ニッポンのR=1戦略

政府は明示的に戦略がこれであるということは明示していません。しかし、専門家会議の方針などからよみとるに、現状の日本の戦略はこのR=1を保ち続ける持久作戦であることはあきらかです。

中国のように積極的な封じ込めでゼロにするわけではなく、かといって多くの死者がでる集団免疫作戦を許容しているわけではなさそうです。R=1の持久作戦で、ワクチン開発まで耐え忍ぶ、第3の道です。

日本国民は、抑制状態に長期間耐える必要があります。いつまでという期限はないのですから、今後は、この状態でも経済を回すことができるよう、社会の構造やビジネスの刷新などがもとめられます。適応したくない・出来ないというのではなく、適応せざる得なくなります。

最後に、繰り返しになりますが、引用した数字は、引用元のブログ主によるエビデンスのない推計です。この数字が一人歩きすることはないよう留意ください。あくまで、本エントリは、R=1を維持するための政策オプションはどう決めるのか、また現状でそれはどのあたりになりそうかというのを議論するための考えを提示しました。

当然ながら専門家の間ではこうした定量的な議論がされているものと思います。(そうであってほしい)。ですが、そうした議論がわかりやすく国民に提示され、政治や市民が納得の上で取捨選択の議論をおこなえるようになるのが大事だと思います。そうでなければ、単に上から押し付けられたメニューでは、我慢の限界が訪れるというものです。日本がもっとも苦手とする意思決定のプロセスではありますが、一致団結するには、掛け声だけではなく、透明化が必要だと思います。

P.S. 誤解なきよう書きますが、筆者はあくまで中国式の封じ込め戦略を推奨しています。その理由は以前のブログやツイッターで書いています。本エントリはあくまで日本の戦略とオプションについて解説を加えたものです。

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