抗体証明は「無敵の人」を作り出す

サトウヒロシ
5 min readApr 13, 2020

英国などでは、コロナに罹患したあと回復し、すでに抗体をもっている人に対して、抗体証明なるものを発行するという話もでているようです。

こうした人は再びコロナに罹患することがない(免疫がある)という前提のもとに、医療や運送といったライフラインの業務の最前線にあたってもらうという考えのようです。

日本でも慶応大学の研修医が集団でコロナに感染した事件がありました。この研修医はやらかしてしまってわけですが、抗体をもっているので、むしろマスクや防護服なしでコロナの診察をすることができる無敵の医療チームとして、今後は最前線で活躍してもらうことができるかもしれません。皮肉ですね。

さて、こうした抗体があるひとから社会復帰させようという政策は、どういう結果を生むのでしょうか?

いくつか想像してみましょう。

まず、抗体を持っているひとを危険な任務に徴用するという発想自体はわるくありません。それにより、ライフラインの崩壊が防ぐことができ、社会が維持できるのですから。

そのひとたちの働きのおかげで、収束ができれば結果オーライです。

しかし、もし収束を目指さない社会で、免疫証明策が取られたらどうなるでしょうか。収束を目指さない社会というのは、コロナがくすぶりつつも、医療崩壊ギリギリでなんとか保ちつつ、経済も同時に回すというようなイメージです。要するに日本の政治家や評論家が、なんとかそこに落としたいとおもっている落としどころの社会です。

こうした社会では、抗体を獲得したひとは最強です。通勤もできますし、飲みに行っても、パーティーしても大丈夫です。3密は無視できるのですから、夜通しクラブであそんで結構。

免疫を獲得した若者から順番に、従来の社会と遊びに復帰していくことになります。クラブや飲食店の経営者も免疫を獲得したひとがスーパースターになり、堂々と営業するようになります。なにしろ、他に店より圧倒的に有利なんですから。無敵の営業ですよ。

となると、自粛で収入が途絶えてしまったひとは、自殺するよりはましということで、一か八かでコロナに自分から罹りにいきます。いわゆる感染パーティーが行われ、クラスタ爆発が正当化されます。

若い人は重症化しないということで、もっとカジュアルにコロナに罹ろうという動きが支配的になり、Twitterの文化人もそれを推します。そもそもTwitter文化人のなかでも、いち早くコロナに罹って回復さえすれば、なんでも言いたい放題になるので最強です。

抗体をもったひとはヒーローです。ダンスフロアでも右肩にImmunityと掘ったひとが人混みで踊りまくるのが伝説となり、他人からツバをはきかけて貰うのがクライマックスになります。結婚相談所では抗体証明書の紙1枚あるだけで、平凡な年収の痩せ男がアプローチの数100倍を達成しましす。銀座の「クラブ抗体」は、クラスタを起こしたテレビ局筋を中心とした業界人のお店で、ママは3月のはじめからすでに抗体をもっていました。ライブハウスのオーナーの口癖は「補償がなければ休業しない」でしたが「抗体あるから休業しない」に変わりました。抗体証明があることが無敵になる時代がやってくるのです。インフルエンサーのブログのタイトルも「まだコロナで消耗してるの?」に変わるかもしれません。

抗体獲得者のなかでは社会は正常化しはじめますが、それ以外の人にとっての状況は変わりません。高齢者はリスクがたかすぎてコロナにかかることはできません。高齢者だけでなく、基礎疾患を抱えていたり、妊娠をしているひともそうです。子供もわざわざ罹る理由もないでしょう。

こうした弱者は、家から一歩も出れない社会になります。

一歩も家からでれないひとを、抗体を持っている人がサポートすればよいのですが、現実は分断にむかうでしょう。

抗体をもっているひとは、もってないひとを馬鹿呼ばわりし、「チキン野郎」と軽蔑するでしょう。社会に復帰できないひとを支えるどころか、逆に差別し始めます。抗体があるひとにとっては、そうでない人のことは、もうどうでもよい話だからです。

その横で医療の関係者は何時終わるとおわらないギリギリの勤務で崩壊を支えます。

かくして社会は、抗体をもつ若いひとが傍若無人に振る舞うなか、怯えつつもなんとか通勤せざるえない中年サラリーマン、家から一歩もでれない老人・社会弱者・子供、というかんじで分断されてしまうでしょう。

抗体を持つ人が1割2割になれば、そこを中心とした経済は十分に回るようになります。歌舞伎町も、クラブも、飲食店も、復活してくるでしょう。しかし、まだ集団免疫には達しません。コロナは至るところにまだくすぶりつつも存在している状態です。

SFが書けそうです。

これが、経済とコロナの共存の真の姿です。

注記: 抗体=免疫として書きましたが、この前提が崩れる可能性は常に留意ください。抗体があっても、からなずしも免疫が得られるかどうかはまだデータがありませんし、検証もされてません。HIVや普通のコロナ(風邪)のように抗体ができても免疫がえられないウイルスがあります。また仮に免疫が得られても、その免疫がどのくらいの期間、どのくらいの強さで持続するのかに関しても、まったくデータはありません。インフルエンザのように〜1年程度で免疫が消滅しまうものもあります。

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