日本では緊急事態宣言が延長されそうです。ここにきて、出口戦略という言葉が聞かれるようになりました。何のために緊急事態宣言を行い、なにをゴールにするのか。明確なものは政府からは聞こえてきません(いつものことです)。
一方外国政府の中には、明確に出口を示して政策を採っている国もあります。それが、各国の政策の違いになるわけですが、いくつか分類して、そのポイントを評論してみます。
出口戦略ですが大きく分けで3つあります。
i. 封じ込め戦略
ii. 放置戦略
iii. 持久戦略
それぞれ見ていきましょう。
封じ込め戦略
封じ込めというのは、積極的な政府の介入により、コロナの感染連鎖を立つことで、新規の感染者ゼロを本気で目指すという政策になります。
SARSの時に大きな恐怖にみまわれた東アジアの国を中心にこの政策がとられています。彼らは、初動から迷いことなく封じ込め一択で動きました。
たとえばベトナムですが、2月の春節から中国からの飛行機を停止し入国禁止にし、同時に感染者を追跡して、濃厚接触者を隔離しました。しばらく戦いがつづいていましたが、4月の3週目よりソフトロックダウンが解除されて、レストランは開き、学校は再開され、飛行機が飛ぶようになり、ホテルが営業され、日常が戻ってきています。死者はゼロです。完全に封じ込めたと言えましょう。
ベトナム以外にも封じ込めを行い成功した国は、マカオ、香港、台湾、NZがあります。封じ込め間近になっているのが韓国、中国、アイスランド。封じ込め路線を明確に宣言し、頑張っているのがオーストラリア、シンガポール、マレーシア、タイといったところです。
つまり、東アジアとオセアニアの先進国はほぼこの路線一択になっています。
出口戦略としては明確です。
封じ込め手法としては、古典的な感染対策です。つまり疑わしい人をみつけ、大量に検査し、感染者や濃厚接触者は強制的に隔離します。そうして地道に感染を潰していくとともに、いわゆる三密業種などクラスタ化するようなところに制限を加えます。こうした手法により、新規感染者をゼロに持っていくということです。
もちろん国外から輸入されると再発しますから、入国規制はつづけます。具体的には、すべての入国者にPCR検査を義務付け、検査結果にかかわらず14日間の隔離を行います。
封じ込め路線の実効性を担保するためには、とにかく検査能力が必須です。また、疑わしい人を隔離できなければそこから広がりますので、隔離には強制力(罰則など)をつけています。
2月の時点で封じ込めは現実的でないと批評する専門家もいましたが、そこから数カ月後、着実にいくつかの国が封じ込めに成功しています。なかでも韓国はいわゆるロックダウンをおこなわず、飲食店などが開き、経済を回しながら、あの感染爆発をへて、現在ほぼ封じ込めに成功していることから、民主主義国家でも封じ込めができるとう好例になりました。
韓国の路線をモデルケースに出口戦略を探る国もでてくるかもしれません。
放置戦略
放置戦略は、ようするに何もしないということです。代表例は、スウェーデンです。スウェーデンでは、飲食店や3密業種も普通に営業しています。かといって大量検査や追跡、隔離といったこともしていません。要するに対策に関しては、それぞれの自主性に任せるということなのです。自由を重んじて、政府は過度に介入しないということです*1。其の結果の死者は許容するというもの。
*1 だたし学校を休校したり、それなりの対策はしている
スウェーデンは人口1000万人の小国ですが、死者は2600人超。人口あたりの死者数は、イタリアやスペインほどではないですが、高い比率(263人/百万人)となっています。
ブラジルは、完全な放置プレイをしています。大統領が経済を重視しており、一切の対策を拒否。とにかくコロナは放置すれば良いとして無策をつづけていますが、死者が増えています。放置反対の軍が発言力を増しており、軍事クーデターも有るかも知れません。一言でいうとハチャメチャです。
これらの国は、結局のところ集団免疫ができることで収束するということを待つことになります。スウェーデンは5月にもストックホルムで集団免疫が達成できると発表していますが、本当かどうかはわかりません。
スウェーデンの特徴は、その死生観です。スウェーデンでは寝たきり老人はいません。衰弱して延命や介護が必要になると、治療をやめてしまうので、寝たきりが発生しないのです。コロナ治療に関しても、重症者はそもそも治療しないとか、70歳以上は治療しないとか、そういうトリアージも正当化されます。
もしかしたら放置路線を取りそうなのはアメリカです。アメリカでは経済の再開を強く望む人がおり、3密どころではない反対集会まで起きています。アメリカではコロナで失業者が溢れかえり、たいへんなことになってます。もう、細かい対策をしていてもきりがないから、勝手にもうすればいいです。
経済を回して感染して死ぬのもべつに自由だし、怖い奴は自分で対策するとか、感染してそうなやつが近寄ってきたら撃ち殺すとか、自分の身は自分でまもってよってことです。コロナが流行り始めたときに銃の売上が激増したのもこういうことですね。
ある意味、本物の自由ですね。スウェーデンの自由は偽りの自由です。自由といいつつ70歳以上はめんどうみないとか、動けなくなったら死ぬとか、社会が一律に生死の線引きを決めているフシがあります。実は自由主義の皮を被った社会主義なのです。
アメリカの自由は本物なので、カネがあるやつは何歳でも治療をうけられて生き残れますし、カネがなければ若くて感染して放置されて終わりです。富豪はアメリカがいやなら、NZにでも移住するでしょう。貧民街でマイノリティが何人バタバタ死のうがあまり関係ないのです。
アメリカは本物の自由主義を採用するかもしれません。
一方でハワイ州は、離島であることを活かし空港検疫を徹底しています。おかげで感染者はゼロになり、封じ込められています。アメリカの場合は州によって取れる戦略に違いが有り、独立して対策もできることから、国内でも出口戦略にばらつきが出そうですね。
緩和政策
この中間が緩和政策です。コロナが流行ったら、社会的な制限を行い、数が減ってきたら制限を緩めます。そしてまた数が増えてきたら、制限を復活させるなどして、「コントロール」を行うという発想です。
コントールの基準ですが、医療崩壊が起こるまでというのがひとつの基準になります。医療崩壊がおこりそうなら社会制限を強め、医療キャパシティがあるうちは感染を拡大させる余地があるとして緩めます。
医療が機能している限り、できるだけ死者を減らすように治療を行います。
このようにして持久戦に持ち込むわけです。持久の出口ですが、ワクチンの登場または、特効薬の発明といったものです。
この政策を行っている国は、いまのところありません。というのも東アジアの国はすでに封じ込めまで成功していますし、感染爆発した欧米は、コントロールできず医療崩壊までいってしまいました。
現在、ロックダウンをへて、経済を再開しようとしていますが、どこまで再開するのかについてはまだ合意がとれていません。経済を再開し、上手くコントールしつつ、社会とコロナが共存するというようなシナリオを実行できている国はまだないので、この戦略はまだ取られてことのないプランであるということになります。
という前提でこの方向に生きそうな国としてはヨーロッパの多くの国です。スペイン、イタリア、英国といったあたりでしょう。
この方針の問題点は、2つあります。
そもそもコントロールが果たして上手くいくのかということ、次に、コントロール下ではずっと制限的な経済活動をしなくてはいけず、いわゆる経済推進派のひとの期待には答えられないレベルなのではないかということ。
早く経済を再開するように推進しても、結局再開できる経済には上限があることを忘れがちです。日本でいえば、パチンコ店を再開するには、他のなにかを諦めないといけません。学校を再開せずにパチンコ店を解禁するというのはアンバランスですから、いずれにしても、パチンコみたいな業種は、持久戦のあいだ、ずっと再開できないといことは理解すべきでしょう。それじゃということで、自分の業界だけは再開してもらおうとして、政治力の強い業界は制限解除のロビー活動が激化します。なんであの業界だけ許されるのか?といった不公平な話しが頻発しそうです。政治家にとってはこれを通じて恩を売ったり票田を獲得できるので悪い話ではないでしょう。
ワクチンと画期的な治療薬
なお、ワクチンが出来てそれにより集団免疫を獲得できたり、または画期的な治療薬が発明され死亡率が1/1000になるなどのブレイクスルーがあれば、薬に頼るという第4の道があります。それは説明するまでもないので、話からは省かせていただきました。
どの戦略が最適か?
どの戦略を取るべきかについては、国の体制や国民性や経済的な体力などもふくめて、いろいろありますので、一概にはなんとも言えません。
個人的な意見では、まだ封じ込めが目指せるレベルで、能力も国民のモラルも経済的な余裕もある国は、できれば封じ込めたほうがいいんじゃないかと思っています。
というのは、私自身が、封じ込めに成功したベトナムにすんでおり、そのベストプラクティスの過程をよく見てきたからです。
以下に、実際にベトナムなどで起こっていることを書いてみますので、参考にされてください。
ベトナムでは、すでに4月の3週目で制限が解除され、通常の経済にもどりつつあります。といっても、いわゆる一斉休業などのロックダウン的なものは、4月の1〜3週目までの3週間だけでした。
現在は、飲食店は再開しており、国内線も飛ぶようになり、ホテルも、ゴルフも、タクシーもライドシェアも復活しています。クラブやスポーツジム、イベント・展示会などのいわゆる3密・大規模業種はまだ再開できていませんが、経済の殆どは通常どおりになっています。
なにより、人々はもうコロナは無いという安心感があり、心理的にも経済的にも、この安心感は絶大なものがあります。コロナの間、予防接種センターが休みになってしまい、子供の予防接種がうけられませんでした。病院にいくのも院内感染が怖くていけません。ですが、いまは安心して病院にもいけますし、予防接種も受けられます。とにかく安心感がちがい、元気に経済活動ができてます。
封じ込めの国は、経済が回らない、経済をずっと抑制しつづける必要があるというのはよくある誤解です。一度封じ込めてしまえば、経済の回復は一気にできるのですね。封じ込めは経済を犠牲にして命をとる政策だ、命と経済のトレードオフだと勘違いされていますが、そんなことはありません。ベトナムでは、命を守って死者はゼロで、さらに経済はもう再開していて飲食店で誕生会だってできるのですから。封じ込めと経済はトレードオフの関係ではなく、相転移のようなものなのです。
封じ込めに必要な4つの必須ポイント
では、実際の封じ込め策をとるにあたって、国として必要な能力はなんでしょうか?つぎの4点をあげます。
・陽性者、濃厚接触者の隔離の強制力(または罰則)。
香港や台湾などでは自宅隔離の際にスマホにアプリをいれ、外にでていないか監視したり、抜き打ちで電話がかかってきて状況報告をもとめられたりします。其の際に外出してたりすれば、罰金や逮捕です。香港では、危険性の高い人は、GPSバンドを装着させて位置を監視しています。保釈中の容疑者のような感じですね。また入国者は、専用の隔離ホテルに空港から直行するなどの施策がとられています。いずれにしても、罰則付き、強制力つきの隔離策が必要になります。
・大量検査
日本で疑わしい事例や、病院や医療関係者の接触者であっても検査がうけられていません。封じ込めを行うためには、こうした人をすべて検査して、状態を把握しなくてはいけません。すべての濃厚接触者を検査できるレベルの検査数が必要です。ベトナムですら、感染者がでればすべての接触者にたいして検査をおこなっています。ベトナムですらというのは言葉が悪いですが、つまり新興国でもできてることなので、ぜんぜんハードルは高くないという事です。
・接触履歴の報告
感染者がでた場合に、だれと接触したのかの情報を提供してもらうひつようがあります。ナイトクラブに言っていたから喋りたくないではこまるので、ここでも罰則付きが必要です。偽証罪のようなかたちで、正直に行動をいわなければ罰則があるということで、調査を拒否できないようにする必要が有ります。国によってはスマホの行動履歴を事業者に提出させることで、この接触履歴の調査を半自動化しているところもあります。そこまでいくとやや嫌な感じがしますが、接触者の調査に偽証罪のようなものを適用するといのは、私権の制限やプライバシーの放棄とまではいかないのではないかと思っています。
・入国制限
入国者はすべて14日間の検疫の対象とします。すでに日本はそうなっていますが、たんなる要請であって強制力がともなわないのが問題です。
封じ込めに成功したはずの国でもちらほら感染者がでているのが数字にあがります。再発しているのかと勘違いしている人がおおいのですが、これは、自国民が帰国しており、空港の検疫で引っかかって隔離されたケースです。隔離されているので、市中には広がりません。むしろ検疫のグッドジョブといえましょう。
あたりまえですが、自国民が国に帰りたいといえば、うけいれなくてはいけません。いっぽうで、検疫ができなければ、入国させるのにはリスクがともないます。ベトナムの場合は、計5万人収容できる隔離施設を用意しました。国外にいるベトナム人が全員帰国しても対応できるように準備して、グリーン化したベトナムに安心して戻ってきてもらうという考えのようです。
4つのポイントを上げましたが、この4つくらいで上手くいきます。こうした手段を徹底して、いわゆるロックダウン的なことを一切おこなわずに感染者をゼロにしたのが、韓国や台湾です。経済をまわしつつ、封じ込めは両立するのです。
これをハードルが高いとかんじるか、そうでないか。日本の民主主義にそぐわないとかんがえるかそうでないか、コストがやすいと考えるか高いとカンガル化、私権の侵害で許されないとかんがえるか許容範囲だとかんがえるか、それはみなさん国民が決めることなので、わたしが絶対こうだとはいいません。みなさんで大いに議論されてください。